“小幅”の生地を使った高級洋傘はなぜ美しいのか
市販されている洋傘の生地をよく見ると、「小間」と称される二等曲線三角形(アイロン型)の生地に裁断された生地が縫い合わされ、「カバー」と呼ばれる円形の生地ができ上がっているのが分かると思います。 「広幅」とは文字通り、幅が広い生地のことです。幅は120~130cm程度で、中央で真っ二つに切れば60~65cm幅の二つの生地になり、それぞれで二等曲線三角形の生地が取れるため非常に効率的。現在作られている傘生地の大半がこの広幅です。 一方で、「小幅」とは、60cm程度の幅が狭い生地のこと。幅は二等曲線三角形の生地一つ分のため、効率は落ち、コストは高くなります。しかし、優位な点もあります。秘訣はその織り方。 小幅の織物は、昔ながらの「シャトル織機」を使っているのが特徴です。シャトルとは英語で「往復」の意味であり、シャトルバス、スペースシャトルなど、折り返し使われる乗り物でよく耳にする言葉。シャトル織機も同じで、シャトルと呼ばれる器具が往復を繰り返して、一本続きの緯糸を経糸に通していく方式を採用しています。 一本の緯糸で織られるメリットは、傘カバーの縁の部分の糸がつながっているため、ほつれる心配がないこと。つまり、三巻が不要になり、傘の縁はステッチがない、シャープでとても洗練された仕上がりになります。縁のディテールの美しさは、三巻がある傘と比べると一目瞭然で、まさにこだわりが光る逸品と言えます。 加えて開いたときに、それぞれの小間の縁が非常にきれいな線対称のアーチ(刳り)を描くことも、小幅の織物の特筆すべき点です。シャトル織機は、緯糸を通す距離が広幅の織機に比べて短く、糸をまっすぐ飛ばすことができるため、布目曲がりが起きにくいのが利点。 小宮商店では、この貴重な小幅の織物を用い、さらに経糸を通常一本のところを、上糸、下糸の二本を使って、表地と裏地の色を変えた二重構造の高級洋傘を、紳士物では「橘」、婦人物では「かさね」というブランドで提供しています。一般的に60cmの傘では経糸の数が5000本程度ですが、「橘」や「かさね」は、上糸と下糸を合わせて1万本。通常の倍の密度となり、重厚感と丈夫さも兼ね備えているのが魅力です。 小幅の生地を使った傘は、高級洋傘の中でもワンランク上の最高級品。洋傘にこだわりを持つ方のステイタスとして一本持っておくと、ファッションがより楽しくなるでしょう。往復する一本の糸が“美”を生む
小間は、職人が巻物状になった反物の生地を広げ、三角の木型を使って裁断し、二等曲線三角形の生地を一枚ずつ作っていくのですが、その元々の反物には大きく分けて、「広幅」「小幅」の二種類があります。
ただし、糸のほつれを防止するために、二等曲線三角形の生地の底辺部分(傘カバーの縁)は極細に三つ折りにして縫う、いわゆる「三巻」処理をする必要があります。
つまり、緯糸は切れることなく、ずっとつながったまま織られていくことが大きなポイントです。そしてこの織り方にこそ、高級洋傘にとって重要な“美”を際立たせる効果があるのです。小幅ならではのシャープな縁ときれいなアーチ
布目曲がりが極力抑えられる小幅の織物は刳りの頂点が中央になるため、美しいフォルムを描き出せるのです。このシャトル織機を使って傘生地向けの小幅の織物を作っている工場があるのは、今では山梨県を残すのみとなっています。