この機械化の時代、ラインに乗せれば傘も全て自動で作られると思われがちですが、傘は今でもほとんどすべて工程で人の手を必要とする製品です。
そのため、最終的には職人の経験と知見が出来栄えを左右する、大変デリケートで奥の深いものです。 ここではそんな職人技の光る、小宮商店の傘作りをご紹介します。
木製の型に合わせ生地を裁断。この裁断によって傘のフォルムが決まる、非常に重要な工程です。
裁断した三角形をコマ(駒、小間)と呼びます。 コマはよく見ると正二等辺三角形ではなく、両辺は緩いカーブになっており、これが傘の美しい形を生み出します。 このコマを作るための木型は、職人によって微妙に形が異なり、それぞれの職人にとって、「傘の心」と言われるくらい大切なものになります。
傷や糸のよれがないか、コマに光を当ててしっかり検査します。透き見ともいいます。
次に、コマを親骨の本数に応じてミシンで縫い合わせます。 わずかな縫製のヨレも許されない、熟練した技術が求められます。コマの三角形頂点から縫い合わせていく手法で、これを「関東縫い」と言います。三角形の底辺(露先側)の方から縫い合わせていく方法よりも難易度が高い方法ですが、仕上がりは美しくなります。
この中縫いが終わったものを「カバー」と呼びます。
骨の関節部分を「ダボ」と呼び、そこを布で包むことをダボ巻きと呼んでいます。 ダボがむき出しのままだと、生地と密着したときに生地が汚れたり擦れたりしますが それを防ぐために一つ一つ付けていきます。
受骨を束ねている箇所(傘を開く際に上に押し上げる部分)をロクロと呼び、それを生地で包みます。これを「ロクロ巻き」と呼びます。
これからいよいよ生地を骨に張っていく作業です。
まずは天かがり。石突きからカバーをかぶせた後は、その名の通り、天井を糸でかがります。この作業がしっかりできていない傘は雨漏れが起きたり、壊れやすくなります。
露先とカバーを縫い合わせていきます。
張りを良くするため、引っ張りながら縫っていきます。熟練の技術による、微妙な加減が必要な作業です。
(露先とは、カバーの先端と親骨の先端を結合する部位のこと)
カバーを骨に糸で縫い付け、固定する工程です。 1本の骨に2カ所ずつ、丁寧に縫い留めていきます。工程の中でも重要なポイントです。
傘の先端部分に取り付けられている防水布を「菊座」、 生地の天井にある円錐形の器具を「陣笠」と呼び、これらを取り付けます。
いずれも雨漏りが起きないように行う工程です。
特に陣笠の取り付けは、中棒の寸法に合わせて陣笠の大きさを絞り、隙間のないようしっかりとかしめる必要があるため、熟練の技が必要です。
最後に手元(持ち手)を付ける工程です。
中棒を少々削って溝をつけます。こうすることによって手元(持ち手)が外れにくくなります。
その上から糸を巻き、ボンドを付け、しっかり慎重に取り付けます。
全ての工程が終われば、小宮商店の製品としての検査を行います。
開きやすく閉じやすいか。作った職人の目線だけではなく、小宮商店のアンブレラマスターが一つ一つ出来栄えを確認します。
「菊座」に「陣笠」、「露先」や「天かがり」…
なんて古式ゆかしき雅な雰囲気の名前でしょう。
傘にはこのように、ほぼ全ての部品や工程に立派な名前が付けられています。 古くから傘作りが人の手によって行われ、またそれがいかに身近な存在であったかが分かります。
小宮商店のある日本橋にも、かつてはたくさんの傘職人が住み、70店以上の傘専門店がありました。
今では傘を1本も持っていない人はいらっしゃらないと思いますが、実用品・消耗品であるということや、盗難・紛失への心配などから使い捨てが当たり前となり、傘に多大な愛を持ってお使いになっている人は、そう多くないのが実情です。
しかし上述のように傘は、熟練職人の手仕事が随所に込められた製品です。これまで思い入れの無かった方も、傘に触れたときにはそんなことに想いをはせて頂けたら嬉しいです。