小宮商店 KOMIYA SHOTEN

2023.07.07傘屋の雑談

今も息づく江戸情緒-濱甼髙虎をたずねて-

製造部の田中です。
夏の気配を感じさせる厳しい日差しに日傘をお求めの方も増えてきました。
小宮商店東日本橋ショップにも連日多くのお客様がお越しくださり、思い思いの傘をお選びいただいている姿を目にすると作り手の立場としても気持ちが高まります。

そんな活気あふれるショップとその界隈は、江戸時代を代表する浮世絵師である歌川広重が晩年に描いた「名所江戸百景」にもたびたび登場します。
そして、雨を描いた浮世絵として最も有名と言っても過言ではない「大はしあたけの夕立」は中央区を流れる隅田川が舞台。
ゴッホも模写した浮世絵、と言えば思い当たる方もいらっしゃるのではないでしょうか。広重は他にも日本橋を舞台に雨のシーンを描いています。
浮世絵、雨、傘……と広がる連想に江戸情緒を覚えずにはいられません。


歌川広重『大はしあたけの夕立』とゴッホの模写

東日本橋ショップから西へ進めば小伝馬町、日本橋、銀座と古くからの老舗が軒を連ねる人気のエリアですが、実は東へ進めばたどり着く浜町とその界隈にもまた名店や老舗が存在します。
今回はそんな老舗のお店の一つ「濱甼髙虎」さんのご紹介です。


浜町公園からもすぐ。散歩ついでに立ち寄よれば、粋なひと時を体感できること請け合いです

都営新宿線「浜町」駅より歩いて1分にある濱甼髙虎さんは、1957年創業の染色加工品を製造販売されている会社です。
小宮商店とは「中央区工芸ものづくりの会」にともに参加し、中央区に根差したものづくりの発展を目指す活動に取り組んでいます。
お店に一歩踏み入れば、てぬぐいや袋物、のれんや半纏が所狭しと並んでいます。

出迎えてくれたのは髙橋由布社長。濱甼髙虎の三代目にあたります。
「人気商品はてぬぐいです。若い方も気に入った図柄や色味で選ばれていて、既製品のハンカチにはない自分だけのお気に入りの風合いを楽しまれているようですね」とのこと。
確かに、職人の手により染め上げられたてぬぐいは、手仕事ならではの絶妙な柔らかさとぬくもりに溢れています。


「袋物も良く出ます。図案はどれも先代の父のオリジナルです。もちろん父も伝統的な図案を参考にしていて、それら図案の多くには洒落や言葉遊びがたくさん込められています。江戸の粋というか、日常を楽しむ感性は現代にも充分通用しますよね」
「必ず目(芽)が出る」サイコロ柄、苦労知らずの「不苦労(フクロウ)」柄――こめられた洒落や言葉遊びは昔から変わりませんが、そこに惹きつけられる私たちの思いはさまざま。そう考えると、持っているだけでぐっと気持ちも上がってくる理由もわかります。縁起やゲン担ぎといったさりげなくも切実な思いに寄り添える品々に、伝統のもつ懐の広さを垣間見た気がします。


言葉遊びの一覧も用意されています。商品だけではなく、ご自身に合った願いや希望をお求めいただけます

これからの季節にぴったりな清涼感溢れる色づかいのてぬぐいや、洗練されたデザインと愛嬌あるキャラクターを彷彿とさせる合財袋など、すべて職人さんの技によって染め上げられています。
ただ、昨今は職人さんたちの高齢化などが原因によって廃業を余儀なくされる工場も増えてきたとのこと。

「とはいえ染屋さんがなくなってしまうことを黙って見ているわけにはいきません。自社の人間を派遣し、設備を利用させて頂きながら技の継承も行っています。廃業するからといって他に乗り換えるのではなく、そこで培われた信頼や想いをしっかりと受け継ぎ、次に託すことが大切だと思います。伝統や文化を謳うならば当たり前のことですけどね」とお話しされた髙橋さんの笑顔は、とても逞しく見えました。

隅田川を臨む風景に広重の描いた世界は見当たりませんが、脈々と受け継がれてきた思いは確かにまだ息づいています。ものづくりを通してそのことに気づかせてくれた髙橋社長と濱甼髙虎のみなさん、ありがとうございました! 
みなさんも江戸の粋と情緒、そして人情溢れる浜町エリアにお出かけになってみてはいかがでしょうか。

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