月間江戸楽(2017年12月号)より抜粋
職人を訪ねる
「最高品質の洋傘を守る」
小椚正一・小椚富子・石井健介
1960年代、世界一の洋傘の製造・輸出国となった日本。日本の昔ながらの傘職人は、夫婦一組で仕事をこなす。
妻が細かなパーツを縫い揃え、夫が裁断した生地を骨に付け組み立てる。「この仕事をもう半世紀近く女房と二人でやってきました。だから『お前が辞めたくなったら、俺も辞めるよ』と話しているんです」とこの道70年になる小椚正一さんは笑って話す。
話をしながらも指先はスムーズに動く。一見何でもない事のように見えるが、生地に針を通す瞬間、指先に大変な力が込められているのが分かる。全てを手作業で行うため、16本骨の傘は一日かけても4~5本しか作れない。
「自分が良い仕事をしているか、これは職人なら誰でもわかります。それをおざなりにして数だけを求めるような、死んだ仕事はしたくない」
小椚さんから小宮商店に傘が納められると、今度は「小椚さんとは50年以上の付き合い」という小宮商店の職人・石井健介さんが持ち手を付け、検品を行う。
「小椚さんもチェックをしてくれていますが、傘の形にしてみると生地や骨もまた違って見えるんです」。持ち手を取り付けながら、細部を一つ一つ確かめている石井さん。
傷の有無に加え、柄は真っ直ぐか、上下のハジキ(開閉レバー)が正しく働くか、飾り房は整っているか・・・。
傘の開閉やホックの着脱時の音まで含まると、全部で20のチェック項目がある。石井さんは語る。「職人には『百年続く店の名に恥じない傘を作る』という誇りを持ってほしい。
そういう思いを傘に込めないと、ビニール傘がどこでも買えるこの時代に、ここまで手間をかけた傘を扱う意味がないでしょう?
だから私も『歳だから引退』というわけにはいかないんです。次の世代が育つまではね」
こちらの記事は、「月刊江戸楽」12月号より抜粋しました。